日本の読者向け · AEDと胸骨圧迫
AEDは資格がなくても使える?倒れた人への119番・胸骨圧迫・音声案内の順序
AEDは特別な資格がなくても使えます。成人が倒れた場面を中心に、安全確認・119番・呼吸の確認・胸骨圧迫・音声案内の流れを説明。「ショック不要」でも救命処置が終了するとは限りません。
資格より、通報と胸骨圧迫をためらわない
駅や学校の壁にあるAEDを見たことはあるけれど、自分が使ってよいのか分からない。「操作を間違えて相手を傷つけないだろうか」「心臓が止まっているか自分で判断できない」と不安に感じる人も多い。まず知ってほしい答えは、AED(自動体外式除細動器)は一般市民が特別な資格なしで使えるよう設計された機器であり、倒れた人への対応はAEDだけで完結せず、119番通報と胸骨圧迫が重要ということだ。総務省消防庁の応急手当講習も、AEDを使うのに資格は必要なく、音声ガイダンスに従うよう説明している。[1]
だからといって「とにかく電気を流す機械」と考えてはいけない。AEDは心電図を解析し、電気ショックが必要かを判断して案内する。必要でない場合もある。そして、ショックが必要かどうかと、胸骨圧迫を続ける必要があるかは別の話だ。本稿は、大人が突然倒れた場面を中心に、最初に何をするか、AEDの音声が何を意味するか、迷ったときに何を優先するかを説明する。[1][2][3]
今、倒れた人に反応がない、または反応があるか分からない場合は、119番へ連絡してAEDを手配する。普段どおりの呼吸がない、判断に迷う場合は、指令員の案内を受けながらただちに胸骨圧迫を始める。AEDが届くまで何もせず待たない。[4]
研究・公的資料と、日常での実践例を分けて紹介しています。個別の診断や治療、減量結果を保証するものではありません。
最初に見るのはAEDの場所ではなく周囲の安全
人が倒れているのを発見したら、すぐ近づく前に周囲の危険を確かめる。車の往来、電気設備、落下物など、救助する人が同じ危険にさらされる環境では、無理に近づけば救助が続けられなくなる。2025年版の市民用指針も、一次救命処置の最初の段階に周囲の安全確認を置いている。[4]
安全が確認できたら、肩をやさしくたたきながら声をかけ、反応があるかを確かめる。「大丈夫ですか」と呼んでも反応がない、判断に迷う場合は、周囲へ大声で協力を求める。ここで一人ですべてを引き受ける必要はない。誰かに119番通報を、別の誰かにAEDを取ってくることを頼む。人が集まれば、通報・機器の手配・胸骨圧迫を分担できる。[4]
119番は「最後の手段」ではない
目の前の人が倒れていて反応がないとき、携帯電話で救急車を呼ぶことをためらう人がいる。「自分が間違っていたら迷惑では」と考えるかもしれない。しかし、反応がない、または反応の判断に迷う時点で、抱え込まず119番へ連絡することが重要だ。2025年版の市民用指針は、周囲に協力者がいないときも119番通報を優先し、通信指令員の指示に従うよう案内している。[4]
通話では場所が重要になる。建物の名前や階、近くの目印、倒れている人の状態を伝え、通信指令員の質問に答える。スマートフォンのハンズフリー機能が使えれば、通話しながら対応する助けになる。手順を暗記できていない人も、救急通報を通じて指示を受けることができる。AEDの設置場所が分からないために、通報を後回しにしない。
呼吸は「しているか」より「普段どおりか」
反応がない人の胸やおなかを見て、普段どおりの呼吸があるかを10秒以内に確認する。総務省消防庁は、呼吸がない、普段どおりでない、あるいは判断に迷うときには胸骨圧迫を始めると説明している。心停止の直後には、しゃくり上げるような途切れ途切れの呼吸が見えることがあり、これは正常な呼吸とは扱わない。[2]
この区別が重要なのは、「少し胸が動いた」という観察だけで救命処置を止めてしまう危険があるからだ。呼吸があるように見えても、普段の安定した呼吸と明らかに違う場合は救急の指示に従う。反応がなく普段どおりの呼吸がある場合は、様子を見ながら救急隊を待つという経路もある。分からないときに専門知識で確定しようとして長く時間を使わず、指令員の指示を受ける。[2]
なぜ胸骨圧迫が必要なのか
心臓が十分に血液を送り出せない状態では、脳や全身に酸素を運ぶ血流が不足する。胸骨圧迫は、胸を一定の位置と深さで繰り返し押すことで、救急隊が到着するまで血流を支えようとする行為だ。AEDの電気ショックが成功するかどうかとは別に、循環を助けることに意味がある。総務省消防庁は、反応がなく普段どおりの呼吸がない、または判断が難しいとき、ただちに胸骨圧迫を開始するよう案内している。[2]
成人では、胸の真ん中にある胸骨の下半分へ片手の手のひらの付け根を置き、その上にもう一方の手を重ねる。肘を伸ばし、胸が約5cm沈むように、1分間100〜120回のテンポで押す。押す間と間は胸が元の高さへ戻るように力をゆるめる。これは成人の目安で、小児・乳児へ同じ深さを当てはめる説明ではない。実技は救命講習で確認したいが、未受講であることを圧迫開始を遅らせる理由にしない。[4]
講習で人工呼吸の技術を身につけ、実施する意思がある場合は、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を組み合わせる。人工呼吸に自信がない、ためらいがある場合でも、胸骨圧迫だけは続ける。とくに小児や、窒息・溺水による心停止では人工呼吸を組み合わせることが強く望まれる。現場では119番の指令員に助言を求める。[4]
AEDは「誰にでも電気を流す機械」ではない
AEDは電極パッドを通じて心臓の電気的な活動を調べ、ショックが必要な状態かを自動的に判定する仕組みを持つ。機器の音声が「電気ショックは不要です」と案内することもある。それは「救急車は不要」「心臓は正常で完全に回復した」と同じ意味ではない。反応がなく普段どおりの呼吸が戻っていない状態では、音声に従ってただちに胸骨圧迫を再開する。「不要」という言葉を理由に止めて待たない。[1][4]
この違いを理解すると、「使ってはいけない人に間違えてショックを出してしまうのでは」という不安を整理できる。AEDは単純な通電ボタンではなく、解析と案内を組み合わせた機器である。ただし自動判定があるからといって、周囲の安全や触れてはいけない場面を無視してよいわけではない。適切にパッドを貼り、解析中は人が離れ、指示に従うことが重要だ。[1][3]
電源を入れたら、まず音声の指示を聞く
消防庁は、AEDは機種が複数あっても基本的な流れは共通であり、電源が入ると音声案内が始まると説明している。ふたを開けると電源が入る型もあれば、スイッチを押す型もある。ショックボタンがある機種と、必要と判断されると自動で通電する機種もある。[1]
そのため、ネットで見た特定の機種のボタン配置を覚え込むより、現場にあるAEDの表示と音声を優先する。「パッドを貼る」「離れる」「胸骨圧迫を再開する」といった指示は、その機器が今どの段階にあるかを教えている。音声が流れている間、救助者が独断で電源を切ったり、パッドを外したりする必要はない。救急隊へ引き継ぐまで一連の流れを続ける。[1][3]
電極パッドは服の上からではない
AEDの電極パッドは、衣服ではなく皮膚に密着させて貼る。貼り付け位置はパッドに描かれた図を確認する。服の上に貼ったり、すき間があるままにすると、電気が適切に伝わらない可能性がある。総務省消防庁は、電極パッドを肌に密着させ、位置はイラストに従うことを明示している。[1][3]
周囲に人がいる場合、衣服を必要な範囲で調整し、救命の作業を妨げずにプライバシーにも配慮できる。女性や子どもへの使用をためらう理由として、服を外すことへの抵抗が挙げられることもあるが、命を守るために必要な処置を遅らせないことが重要だ。周囲の人は、救助者が安全に対応できるよう場所を空ける、視線を遮るなどの配慮ができる。
雨で服や胸が濡れているとき
雨や汗で胸が濡れていると、「AEDは使えない」と思い込む人がいる。しかし総務省消防庁は、パッドを貼る場所が濡れている場合には、その部分と周辺の水分を乾いた布などで拭いてから貼るよう説明している。[1] つまり、濡れていることを理由に機器を諦めるのではなく、電極が密着するための条件を整えることが大切だ。
パッドの下に貼り薬がある場合も注意が必要である。消防庁の教材では、パッドを貼る位置に貼り薬があるときは、はがして薬剤を拭き取るよう示している。[1] また胸に医療機器の出っ張りが見える場合は、そこを避けてパッドを貼る案内がある。いずれも細部で迷って長く止まるのではなく、AEDの音声や119番の指示を受けながら進める。
「離れてください」はなぜ必要なのか
AEDは心電図を解析するとき、体の動きや周囲の接触で正確な判定が妨げられることがある。そのため、解析中は傷病者に触れないよう指示が出る。消防庁は、音声に従って周囲の人にも離れるよう伝え、誰も接触していないことを確認するよう説明している。[3]
電気ショックが必要と案内された場合も、人が触れていないことを確認する。いわゆる「離れて」という呼びかけは、周囲の安全を確保し、機器の指示に正しく従うためのものだ。ただし、この時間以外までずっと何もしてはいけないわけではない。ショック後も「ショック不要」の案内後も、普段どおりの呼吸や目的のある仕草が明らかに戻っていない限り、続く音声に従ってただちに胸骨圧迫を再開する。[3][4]
ショックをしたのに胸骨圧迫を再開する理由
ドラマでは電気ショックを一回行うと人が起き上がる描写があるが、現実のAEDは「一度通電すれば救命処置が終了」という道具ではない。ショックが必要な不整脈に対応しても、その時点で十分な血流が回復したとは限らない。総務省消防庁の教材は、電気ショックのあと直ちに胸骨圧迫を再開し、機器が一定の間隔で再解析する流れを示している。[3]
「電気ショックは不要です」と表示された場合も、それだけで傷病者が助かったと判断してはいけない。AEDはすべての種類の心停止に電気ショックを出すわけではないためだ。ショック不要の案内の後も、続く音声に従ってただちに胸骨圧迫から再開する。回復を期待して長く観察したり、次の解析まで何もしなかったりしない。普段どおりの呼吸や目的のある仕草が明らかに戻った場合の扱いは、後の節で説明する。[4]
子どもにもAEDは使えるのか
AEDは大人だけの機器ではない。消防庁は、小学生以上に用いるパッドと、未就学児に用いるパッドの選択を区別して説明している。未就学児用のパッドがない場合には、小学生〜大人用パッドを用いるという案内もある。逆に、小学生以上に未就学児用パッドを使用しないよう注意している。[1]
年齢に合った設定があるのは、子どもの体格と電気ショックに必要な条件が大人と異なるためだ。ここでの詳しい貼付位置や小児の胸骨圧迫の技術は救命講習で確認したい。大切なのは「子どもだからAEDを使えない」と思い込まず、119番の指示と機器の表示に従って対応することである。乳児に使う場合はパッドを胸と背中に貼り、未就学児用がなければ小学生〜大人用を用いる。この点も2025年版の市民用指針で案内されている。乳児や子どもの圧迫の深さ・方法は成人と異なるため、大人の手技をそのまま流用せず、119番の案内を受ける。[1][4]
倒れた人が突然動いたら
胸骨圧迫中に、普段どおりの呼吸や目的のある仕草が明らかに戻った場合は、心肺蘇生をいったん中断し、呼びかけへの反応と呼吸を繰り返し観察する。判断に迷うときは圧迫を続け、119番の指令員に状態を伝える。ただ一回体が動いた、引きつるような動きがあったというだけで、すべて正常に戻ったと判断しない。心停止の直後のけいれん様の動きは、目的のある反応ではない場合がある。[4]
救命処置を開始した理由が「反応がない・普段どおりの呼吸がない、または不明」という判断だったことを思い出そう。そこが明らかに変わったかどうかが大切で、AEDの通電回数や経過時間を一つの成功判定にしない。再び反応がなくなり、呼吸が止まる、普段どおりではなくなる場合は、ただちに心肺蘇生を再開する。一時中断してもAEDの電源は切らず、パッドは貼ったままで救急隊を待つ。救急隊が到着したら、発見時の状態、反応・呼吸の変化、行った胸骨圧迫とAEDの使用状況を伝える。[4]
救命講習で何を身につけられるか
記事を読んで流れが分かっても、実際に人の胸をどのように押すか、機器をどう取り出すかは体験しないと分かりにくい。学校、職場、消防機関などで救命講習が行われている場合は、実習を受ける価値がある。特に、声をかける、119番とAEDを頼む、呼吸を短時間で確認する、胸骨圧迫を続ける、AED音声に従うという一連の順序を練習すると、現場で迷いにくくなる。
日常生活では、自宅や通学・通勤先の近くにAEDがあるかを確認しておくこともできる。ただし、機器の設置状況は変わるため、古い地図だけを頼りにしない。周囲の安全を確保し、応援と119番を求めることが先にある。救命の手順は「AEDの場所を完璧に把握した人だけができる行為」ではない。
もし近くに三人いたら――役割分担の例
例えば施設内で一人が倒れ、通行人が三人いたとする。Aさんは周囲の安全を確認して声をかける。反応がない、または判断に迷えばBさんに「119番をお願いします」と伝え、Cさんに「AEDを持ってきてください」と頼む。Aさんは普段どおりの呼吸がない、または判断に迷う場合に胸骨圧迫を開始する。Bさんは現場の正確な場所と人の状態を通信指令員に伝え、必要に応じて指示を周囲に共有する。これは市民用指針の手順を理解するための仮想場面であり、特定の人に決められた役割ではない。[4]
AEDが到着したら、音声を聞く人と胸骨圧迫を行う人が協力する。解析中など機器の指示があるときは離れ、普段どおりの呼吸や目的のある仕草が明らかに戻っていなければ、ショックを行った後も不要の案内の後も、ただちに胸骨圧迫を再開する。この流れは、助けに来た人が専門家でなくても協力できることを示している。重要なのは、機器の操作に一人が集中して119番を忘れることや、「AEDが来るまで何もしない」と待つことを避ける点だ。[1][3][4]
何を覚え、何を現場の案内に任せるか
準備として覚えておきたいのは、安全確認、反応の確認、119番とAEDの依頼、呼吸の確認、必要時の胸骨圧迫という大きな順序である。細かなパッドの位置やショックの操作は機器のイラストと音声の助けを受けられる。すべての機種の表示を暗記しなくても、一般市民が使えるように設計されている理由がここにある。[1]
反対に、AEDの音声が聞こえているからといって、119番や胸骨圧迫の必要性がなくなるわけではない。救命に必要なのは「正しい機器を使う知識」だけでなく、「誰かが倒れた」という状況を周囲と共有し、救急隊へ引き継ぐまで中断を短く行動を続けることだ。迷ったときには通信指令員の指示を求める。
結論――資格より、通報と胸骨圧迫をためらわないこと
AEDは特別な資格がなくても使用でき、機器の音声案内を頼りに操作できる。まず安全確認、反応の確認、119番通報とAEDの手配、普段どおりの呼吸の短時間確認、必要な胸骨圧迫という順序を理解しておきたい。AEDがショック不要と判断しても、救命処置が終わるという意味ではない。普段どおりの呼吸や目的のある仕草が明らかに戻っていなければ、続く音声に従ってただちに胸骨圧迫から再開する。明らかに回復して一時中断した場合も反応・呼吸を観察し、AEDの電源とパッドを維持して救急隊へ引き継ぐ。[1][2][4]
現場で最も避けたいのは「自分には資格がない」「間違えるかもしれない」と何もしないまま時間を失うことだ。周囲と協力して119番につなぎ、機器と通信指令員の指示に従う。この基本を知っておくことが、AEDのある場所をただ通り過ぎることから一歩進む備えとなる。
SOURCES & CONTEXT
参考文献・一次資料
- 総務省消防庁「応急手当WEB講習:AEDの基本的な使い方」
- 総務省消防庁「応急手当WEB講習:呼吸の確認」
- 総務省消防庁「応急手当WEB講習:AEDの基本的な使い方」
- 日本救急医療財団心肺蘇生法委員会監修『改訂7版 救急蘇生法の指針2025 市民用』2026年9月10日更新PDF、7・20〜29・32〜38・44頁。
一次資料へのリンクを掲載し、観察研究・試験・モデル・公的ガイドの違いを本文で説明します。専門家による医学的監修は受けていません。